統計的仮説検定を用いる場合には、その背景に「背理法」という考え方が採用されています
背理法を始めて聞く場合には、わかりにくいものですが、慣れれば自身の思考の糧にすることができます
この記事では、背理法とは何かについて解説していきたいと思います
pythonで統計学を学ぶ流れは以下の記事を参考にしてください

背理法とは
背理法とは、コトバンクで以下のように定義されています
命題の仮定のほかに,結論の否定を仮定して推論を行ない,そこから導かれる矛盾を示すことで命題を証明する方法
もう少し簡単にすると、
「命題Aを証明するのに、命題Aが成り立たないと仮定し、矛盾が導かれることを示すことで、命題Aが成り立つと証明する方法」
のことです
統計的仮説検定で背理法が用いられるのは、
- 仮説の正しさを証明することが難しい
- 仮説が正しくないことを証明することは可能
といった理由が挙げられます
「命題」がわからない場合には以下の書籍から学ぶのをおすすめします
論理学は人の思考の根底にある学問であるため、どのような職業の人でも必須の学問だと思います
背理法の例
命題A:猫は動物である
「猫は動物ではない」と仮定する(帰無仮説)
「猫は動物ではない」という仮定の矛盾点を見つける
「猫は動物ではない」という仮定に矛盾点があるので、仮定は否定される
よって、「猫は動物である」(対立仮説)が証明される
帰無仮説・対立仮説については以下の記事を参考にしてください

背理法を用いて仮説を証明する
背理法を用いるのは、「仮説の正しさを証明することが難しい」という理由があります
例えば「この世のカラスは黒い」という仮定を証明するにはどうすればいいでしょうか?
「この世のカラスは黒くない」という反対の仮説を立てます
「この世のカラスは黒くない」を証明するには、黒いカラスをたくさん見つけてくればOKです
100羽観察して、100羽とも黒いカラスだった=「この世のカラスは黒くない」という仮説は間違っている
つまり、「この世のカラスは黒い」という仮説が正しい
という風に導かれます
仮説が正しいことを証明することは難しいですが、仮説が正しくないことを証明することは可能です
そのため、統計的仮説検定でも同じような方法が用いられることになります
どれくらいの黒いカラスを見つけるべきか
上述した黒いカラスの例では、100羽見つけて100羽とも黒いカラスだった=「この世のカラスは黒くない」というカラスは間違っている
という判断をしました
この判断する数値を有意水準と言います
慣例的に用いられる有意水準は5%ですが、100羽のうち95羽が黒いカラスであれば、仮説は間違っている、という判断になります
背理法の落とし穴
100羽のうち95羽が黒いカラスであった場合には、「この世のカラスは黒くない」という仮説が間違っていた、と判断することができます
しかし、100羽のうち94羽が黒いカラスだった場合にはどうでしょう?
「この世のカラスは黒くない」という仮説が正しいと判断しても良いのでしょうか?
ここが背理法の落とし穴なのですが、帰無仮説が棄却されなかった場合、「帰無仮説が正しい」とはなりません
「帰無仮説が正しいかどうかはわからない」という結論になるだけです
今回の場合は「この世のカラスは黒くないかどうかはわからない」ということです
まとめ
- 背理法:命題Aを証明するのに、命題Aが成り立たないと仮定すると矛盾が導かれること示すことで、命題Aが成り立つと証明する方法
- 背理法の証明の流れ
- 「命題𝐴」を証明したい
- 「命題Aが成り立たない」と仮定する
- 「命題Aが成り立たない」という仮定が矛盾することを、計算や推論で導く
- よって「矛盾があるので仮定は間違いである!」となる
- したがって「命題Aは正しい」と結論付ける